富野ファンではない僕と、Gのレコンギスタ(その1)

 『機動戦士ガンダム』は、最初は女性アニメファンに注目され(アウトやアニパロコミックスを読んだ限りではシャア×ガルマのBL的視点の注目が大きかったようなんだけれど、最初期はどうなんだろう)、次いで男性アニメファンが追随したけれど、スポンサーであるクローバーの玩具の売れ行きが不調であった為に放送は打ち切りになり(クリスマス商戦でGファイター付きのDXセットがヒットし、クローバーは打ち切り決定後に放映延長を打診したそうだが、時既に時間切れで現在のような終わり方になったという)、しかしその後、ファンの要望、再放送を嘆願する署名活動等に応える形で再放送、その再放送後にバンダイが出したガンプラが小学生男子中心に大ヒット、社会現象になり更に再放送が重ねられ映画化が行われる――というような流れから現在に至っているのだと認識している(要確認)。

 自分の話をしよう(というかこの「その1」は全部自分の話である)。

 僕は丁度、『機動戦士ガンダム』が再放送から社会現象になっていき、映画化された時の幼稚園児だったのだと思う。花見のテキ屋でザクのゴム人形(首や腕などが取り外し出来るのだけれど、ジョイントパーツにメカメカしいモールドがしてあって凝っていてお気に入りだった)を買ってもらい、ズック袋にテレビマガジンの付録の劇場版『ガンダムIII』のシールを貼り、TVマガジンの付録のMS大図鑑2冊(半完成品に別紙のカラー画稿をのりで貼り付けて自分で完成させる(た)やつだ)を宝物に、ガンダムの身長が何メートルで何万馬力だなんてのを憶えて、デパートのガンダムショーに連れて行ってもらい(ハリボテの大きなガンダムシャアザクが両脇に並んだステージで、あの大きなガンダムとザクが動くものと思って目を輝かせていたら着ぐるみのガンダムとザクが出てきてがっかりした)、ショーの終わったあとのクイズ大会で司会のお兄さんに当てて貰おうと全力で手を挙げて、隣の小学生に当てられて本気で悔しがってるような子どもだった。

司会「ガンダムの武器といったら?」
小学生「て…鉄砲?」
司会「なんという鉄砲でしょう?」
小学生「……」
俺達「「「「はいはいはいはいはいはい!!!!」」」」
俺の父親(びーむらいふる―)
小学生「…! ビームライフル!!」
司会「はい、正解!!」
俺達(絶望&僕は父親に不信の目)

 ガンダムモビルスーツとそれ以降のロボットアニメのロボットというのは当時の自分にとっては今で言う『妖怪ウォッチ』の妖怪や、ポケモンのようなものだった…のだと思う(仮面ライダーや戦隊ヒーローの怪人、ウルトラマンの怪獣なんかも同じ枠で、テレビマガジンの付録のそれらの事典は階段脇に座ってなんでも熱心に読んでたような記憶がある)。
 ガンプラやメンコがゲームの代わりで、同じ様にモビルスーツを好きなたくさんの子どもたちと、それぞれお気に入りのキャラクターの意匠を持ったそれらを互いに持ち寄って戦い合わせていた。
 実家で甥っ子達がポケモンのポスターを壁に貼ってそれを熱心に見ていたのを目にした時、同じ場所にテレビマガジンの付録のポスターを貼ってモビルスーツの名前を覚えていた自分の姿が重なって見えて感慨深く思ったものだ(どんだけテレマガに支配されていたのだろうか当時の自分は)。

 そんなだからか、或いは先にこれを与えられていたからなのか定かではないけれど、物心ついて初めてのクリスマスプレゼントはクローバーのガンダムDXセットだった(後に分かるが偶々パチンコの景品にあったロボットがそれだったからである。やがて同様のパチンコの景品としてボトムズのデュアルモデルやハイメタルエルガイムも与えられている。幼稚園当時一番欲しかったのはザブングルの玩具だったが、残念ながらパチンコ屋になかったかその時の親は勝てなかったかしたようだ)。小学・中学と成長すると誕生日やクリスマスのプレゼントはガンプラに変わった。今考えると年齢が上がっているのにプレゼントの価格は下がっている。当時数百円のガンプラ価格はお父さんお母さんにも優しかったのかもしれない。

 いつしか愛読書はテレビマガジンからコミックボンボンに変わり(この移行も実は価格が下がっている)、『プラモ狂四郎』をバイブルに作中でやっていた改造を色々と真似したり、紙面と模型で同時展開していたMSV(モビルスーツ・バリエーション)に夢中になったりしていた(その間に『ザブングル』や『ダグラム』、『ダンバイン』や『ボトムズ』『バイファム』が放映され、それらのプラモも作ったりしたけれど、結局帰ってくるところがガンプラだったのは『プラモ狂四郎』の影響だと思う)。今でも好きな色は赤だけれど、それはジョニー・ライデンのせいな気がする。自分の好みで設定より黒を増やして赤と黒で塗り分けたMS-06R2ザクIIと、MS-14B高機動型ゲルググのライデン機はアニメ本編のモビルスーツシャアザクシャア専用ゲルググなんかよりずっとカッコイイし強いと思っていた。

 やがてVHSとビデオレンタル店が普及し、我が家にもVHSデッキがやってきた頃に『Zガンダム』の放映が始まった。ウチの地方では裏番組が『レンズマン』で、相当に悩んだけれど『Zガンダム』を録画することを選んだ。最初は『Zガンダム』を録画して『レンズマン』をリアルタイム視聴しようと思っていたのだけれど、いつしかリアルタイムでCMカット録画をしながら『Zガンダム』を見るようになっていた。『レンズマン』の時間移動か終了もあったろうし、親から与えられた使い古しの120分テープに出来るだけ多くの話数を入れたいという事情もあった(当時のテープ価格もあってだろう、複数のテープを与えられることはなく、1本のテープをどう使うかでその頃は頭を悩ませていた…が、結局『Zガンダム』は消したくないとごねてごねて最終的に2本の120分テープを追加で貰ってそれに全話収めた)。うちにあったデッキのリモコンは有線の上に別売りで当然のように導入されず、デッキに張り付いてCMどころかOPやEDまでカット(後期OPに変更された時は録った)しながらの視聴は色んな意味で真剣で、その手間の成果を確認する為もあったのだろう、録画したその『Zガンダム』は今振り返ってもバカなんじゃなかろうかというくらい繰り返し繰り返し見ていた。今現在、甥っ子が何度も何度も『アンパンマン』の録画を繰り返し見ようとするのに、『Zガンダム』をそうしていた自分を思い出したりもする。

 その頃の僕は正直なところ『ガンダム』等のロボットアニメに物語を見ようとしていたのではなく、甥っ子が『アンパンマン』やポケモン等をその多種多様なキャラクターを中心に楽しんでいるように、多種多様のモビルスーツをキャラクターとして見て楽しんでいたのだと思う。しかし今の『アンパンマン』や『ポケモン』のアニメ同様、幼い僕が少しずつ言葉の意味を覚え成長しながら繰り返し見ているそれらには物語があったのだ。人が死ぬシーンに恐ろしさを感じ、飯台(当時我が家にあったのはテーブルなんて洒落た言い回しするような家具ではなかった)の下に隠れたりしながら、僕はアニメで描かれる、物語というものを徐々に徐々に理解していったようにも感じる。

 さて、そんな風に『Zガンダム』にハマっていた上にボンボン読者だった僕は、当然のように当時の講談社が出した『Zガンダムを10倍楽しむ本』も手にとっていた。富野由悠季という人を認知したのは、この本でのインタビューからだったと思う。やがて別系統で『クリィミーマミ』にハマって以来アニメファン化していた姉(当初は熱心なピンクレディーやアイドルのファンだった)が読んでいたアニメ誌や、時折気まぐれで親に買い与えられた模型誌なども併せて読んでいくことによって、『ガンダム』というのが、少なくとも富野由悠季という人にとっては、モビルスーツというキャラクターやメカを自分のような子ども達に売っていくことを目的としたものではなく、物語…、映像「作品」を強く意識して作られているということが分かってくる。1st『ガンダム』にはTV版と劇場版があって、TV版のGファイターGアーマー)が劇場版ではコアブースターに差し替えられているのだけれど、それは、玩具前提のメカであるGファイターを監督が作品にそぐわないと嫌ったかららしい、なんていうことも。

 今思えば、GファイターGアーマー)及びそれを玩具化したガンダムDXセットというのは、スポンサーの都合で打ち切られたり延長を打診されたりの作品製作に対する理不尽の象徴のようなものだからこそ拘ったのではないか、とも思えるのだけれど、当時の僕にとって監督のGファイター否定というのは激しくショックな話だった。前述の通り、ガンダムDXセットは自分とガンダムとの関わりの象徴のような存在であったし、そもそも自分にとって当初ガンダムというのは物語作品というよりも、モビルスーツというキャラクター群のことであったので、それが本質ではない、本質は別のところにあるというのは自分内で物凄いパラダイム・シフトを引き起こすものであったからだ。

 そしてそれは、ガンプラファン、モビルスーツファンである自分は物凄いガンダム好きのつもりでいたけれど、実は富野監督の作った作品としての『ガンダム』を何も見ていない、作品のファンではないということを突きつける話でもあった。

 実際には当時の自分はそこまで受けたショックについて色々と考えていたわけはなく、やりたいことがあるけれど、その為にはお金を出してくれるスポンサーの意向にそって動かなくてはならない事情が大人にはあったりする、という社会の仕組みみたいなものを当時の富野監督のインタビューから知ったり、それが『Zガンダム』作中のアナハイムとクワトロ(シャア)の関係に落とし込まれているというような解説から、『ガンダム』スゲー、深けー、くらいの話に落とし込みつつ、相変わらず『プラモ狂四郎』に影響されてハイザックのプラモを作ったりするガンプラファンのままだったのだと思うのだけれど(1/100のハイザックが素組で指が1本1本稼働するのには心底感動した)。

 『Z』が終わり『ZZ』が始まる頃には、ガチャポンの塩ビ人形のSDガンダムがブームになっていて、周囲の友人達がハマるのに合わせて自分の興味もガンプラからSDガンダムに移っていった。『ZZ』前半がコミカルだったのも影響していたのかもしれない。自分は塩ビ人形のSDガンダムよりも付録のシールのデザインとその裏の解説が好きだったけれど、学校では塩ビ人形の方と、シールと同じデザインを流用したマグネット(駄菓子屋で一枚数十円程度で買えた)が人気で、それをメンコとして、リノリウムの床一枚を土俵にして戦うというのが流行していた。やがてカードダスや、元祖SDガンダムやBB戦士といったSDのプラモも出てくるのだけれど、自分の周りではBB戦士が圧倒的な人気を誇った。SDプラモはタカラの『魔神英雄伝ワタル』のキットがヒットしていた影響かとも思うけれど、うちの田舎では『ワタル』が放映されていなかったので、BB戦士1強だった。

 時代的には前後してファミコンの全盛期でもあり、『Zガンダム』のソフトには凄く憧れたが(特に仕様の違うプレゼント版)我が家では買ってもらえず、しかしディスクシステムの『SDガンダム』は許されたのでこれに思い切りハマった。幼い頃から慣れ親しんだ知識のスペックを再現したモビルスーツ達を自分で操作し戦う快感は得難いものであった。友達や弟と対戦しまくり、やがてマップコレクションに書き換えして更に遊びこんだ。

 『逆襲のシャア』はそんなSDガンダムの第一次ブーム時に公開された為か『SDガンダム』が併映で、前売券特典では限定のSDガンダム(塩ビ人形)のνガンダムが付けられているものもあった(今考えると『ドキュメントダグラム』の併映に『チョロQダグラム』と同じパターンでもある)。このνガンダムは特殊な材質な為に硬いし塗装も出来なくて他の人形と並べておくにはそぐわなかったのだけれど、光を当てておくと暗闇で光る蓄光タイプのプレイバリューがあって、小学生の自分と弟は、懐中電灯で光を浴びせたそれを、階段下の物置に持って行って扉を閉めては興奮して眺めていた。

 『逆襲のシャア』は公開前にTV特番などもやり、その最後に富野監督は「この作品は35歳以上の方に、特に男性の方に見てもらいたい」といったメッセージを発している。作品ではなくモビルスーツというキャラクター、特にSDガンダムなんていう派生物に夢中で、その玩具を目当てにしていた当時小学生の自分のような子どものファン?は、富野監督にとっては望む観客層ではなかったのかもしれない。実際、作品、シャシンとしての映画を観に行っていたとは言い難いので、申し訳ないような、複雑な気分がある。Gアーマーショック再びである。

 『∀の癒やし』に、「ファースト・ガンダムの第一番目のお客さんになってくれたのは、中学生の女の子であって、まちがってもプラモ・ファンではない。」という記述があるけれど、僕はそのプラモ・ファンであって、ガンダムという作品のファン、富野由悠季のファンではなかったガンダム・ファンなのだ。これは今でもそうで、物語として『ガンダム』シリーズを見直し、その映像作品としての素晴らしさ面白さに気づいて富野監督スゲーと思うようになった後も、興味の主体はやっぱりモビルスーツであって、紡がれている物語や作品ではない。

 ゲームやプラモ、SDガンダムなどのグッズにお金を注ぎ込んだ一方で映像ソフトを一切購入していないこと、『キングゲイナー』などのガンダムでない富野作品の幾つかを見ていないこと(友人に1話を見せてもらってOPに感動したことは覚えているのだけれど、当時WOWOWを見る環境もレンタルする余裕もなくそのままになった)、これから見る予定も特にないことなんかを考えると、つくづくとそう思う。一方で、富野作品でなくてもガンダムの新作であればこれからも僕は見るだろう(『UC』はまだ観てないけど)。

 ガンダムを、キャラクターやプラモを玩具メーカーに作らせたのは、元を辿れば富野監督達アニメの製作者であり、その魅力に気づいて署名活動をして再放送をさせてくれたファン達だ。

 僕はガンダム・ファンではあるかもしれないけれど、富野ファンでは、ない。

 そこに感謝と罪悪感と断絶を感じる。

 自分のような当時の子ども、プラモ・ファンやSDファンは、コンテンツ、キャラクター・ビジネスとしてのガンダムを支えてきたのかもしれないが、同時に作品としてのガンダム、作家としての富野由悠季を苦しめ続けてきたのではないか、と。

 春休み、ガンダムに興味などない祖父に連れていってもらった『逆襲のシャア』を上映する映画館には、保護者の同伴など無しのサッカー部の先輩達も大挙して来られていて、気恥ずかしかったのを覚えている。時間を間違えた為、『エルム街の悪夢3』を見て恐怖のずんどこに叩き落とされてから『SDガンダム』を観、意識して必要以上に笑って気を取り直した後で『逆襲のシャア』に臨んだというのも印象深い(当時は入れ替え制のシネコンではないので、入場後に留まっていれば、映画館によっては1枚のチケットで複数の映画を観たり、同じ映画を何度も観たりといったことも出来たのだ)。富野監督が観て欲しいと言った35歳以上の男性が会場にいたような印象は、余り無い(いやうちの祖父は確実にそうだったけれど)。

 『逆襲のシャア』は、ガンダムシリーズは、富野由悠季監督の想定した作品としてのガンダムのファンや監督のファンばかりではなく、僕のような非・富野ファンの子どもやガンダムに興味のないその保護者も多く目にした作品だったと思う。その上での『逆シャア』の配給収入6億2千万円、観客動員数103万人(Twitterで流れていたが、これは同年の『となりのトトロ』を上回る)というのを、富野由悠季という人がどう思っていたのか、どう思ってきたのかということを察することは出来ない。今、『Gのレコンギスタ』という作品を敢えて子供向けであるというように言う心理の深層というのは、尚更だ。

(続く)

暁美ほむらが風邪をひいた日







cold case





 魔法少女になってから風邪をひくのは、3度目だった。
 1度目は、まだ眼鏡をかけていた頃。皆が凄く心配してくれて、特に巴マミ佐倉杏子がやたら煩く世話を焼いてくれたのを憶えている。
 2度目は、「もう誰にも頼らない」と1人で戦い始めて間もない頃。死にかけた。1度目の時に巴さんと杏子がどうしてあんなに私に気を使ったのかをそれで理解した。あの人達も同じ経験をしたのだと、朦朧とした頭で悟りながら、その周回を棄てた。


 2度あることは3度あった。


 或いは、3度目の正直で今度こそ私は死ぬのだろうか。
 風邪で死んだ魔法少女を、円環の理――まどかは迎えに来てくれるのだろうか。
 ベッドに横たわり、熱を測りながらぼんやりとそんなことを考える。
 先程、1度目の時と同じ様に心配し、同じ台詞を言いながら世話を焼こうとしてくれた巴マミは丁重に追い返した(今日は大事な説明会の日だと前から言っていたくせに、何をやっているのか)。
 佐倉杏子も留年のかかった追試があって休ませるわけにはいかない。半ば同居しているあの子は巴マミが見舞いに来る前にとっくに叩き出していた。


 ピピッ。


 1人きりの部屋に、電子音が小さな音のくせに響き渡る。
 39.7度。
 見なきゃよかった。


 ケホッ。


 ため息を吐いたら一緒に咳が出た。


 ピロリンッ。


 咳の合間に、体温計とは別の電子音が聞こえた。
 枕元のスマートフォン巴マミからのメールが届いている。何かあったら遠慮せずに救急車を呼べと書いてあって笑う。佐倉杏子は携帯電話を持っていないから(距離がありすぎて学校まではテレパシーは届かない)。自分も連絡をもらっても今日は駆けつけられないから。…だから救急車って、幾らなんでも大袈裟だろう。それに、何かって、何だろう。魔獣が出るとか?
 笑ったらまた咳が出た。息が苦しい。頭が痛い。
 深呼吸したらヒューヒューと鼻と喉から音が出た。笛みたい。
 また咳が出る。
 痰を吐き出す。
 枕元のティッシュをひっつかみ、鼻をかむ。
 息を整える。
 マミが置いていった風邪薬を、同じく置いていってくれた、ペットボトルのスポーツドリンクで飲む。
 ……少し落ち着いた。
 熱のせいか、薬の作用か、頭がぼーっとする。そのぼんやりとした頭で再度考える。
 何かあったら。
 魔獣が出たら、どうしよう。
 いや考えるまでもない。魔法少女なら戦うべきだ。それが使命だ。
 それに――。
 風邪で死んだらまどかは私を迎えに来てくれないかもしれない。来られないかもしれない。
 でも、戦って死んだなら、きっと――

***



 魔法を使うと身体が熱を持った。火照るとかそういうレベルではない。血が沸騰しているのではないかとすら錯覚する。熱い。


「ほむら、風邪に対して回復魔法を使うと、ウイルスを殺そうと体内の発熱が加速されて逆に体力が」


 五月蝿いインキュベーター、ならその体力も魔法で回復させるまでよ。熱すぎて動けないって言うなら、それも魔力で強制冷却できるでしょう?


「それは魔力の消耗が激しすぎる。一歩、進むだけでもジェムが――。濁りきったら君は消滅してしまうんだよ?」


 知ってるわ。以前そうなりかけたことがあるもの。それならそれで好都合よ、魔獣を道連れに破滅してやるわ。そうしたら、堂々と円環の理に導かれられる。それなら、それなら、不可抗力だもの。精一杯生きて、戦って、あの子の守りたかった場所を守った結果だもの。がんばったねって、まどかに認めてもらえるわ、きっと――

***



 額にひんやりとした感触がして私は瞼を開けた。夢? まだ、生きてる――?


「悪い、起こしちまったか? でも、熱そうだったからよ」


 声のする方向を見ると、制服姿の杏子がいた。氷嚢の氷を交換してくれたらしい。包んだタオル越しの、冷たすぎない涼感が心地よい。頭痛は治まっていた。ただ、さっきより少し身体が怠い。


「……あなた、追試は?」


「開口一番それかよ。追試は放課後だよ。今は昼休み――はちょっと過ぎちゃったけど、まぁ、追試までにはガッコ帰るから」


「留年かかってるのにサボるとは――どこまで貴女は愚かなの」


「5時限目は先生が出張で自習だからバレねえよ大丈夫だよ」


 いつもなら腹を立てて突っかかってくるだろう物言いに、私が病気のせいか、杏子は苦笑いしながら、優しく話しかけてきた。気味が悪い。


「今、気持ち悪いとか思っただろ」


「思ってないわ」


「言っとくが、普段、人に偉そうなこと言ってるくせに、体調管理もできねえってのも相当愚かだからな」


「バカにバカって言われるのって、こんなに屈辱的なのね…」


「んだとコラ…って、笑ってんじゃねえよ」


 私達は顔を見合わせて笑う。また少し、咳が出た。


「飯は?」


「巴さんが温めるだけでいいって作っていってくれたパン粥が」


「んじゃ、あっためてくる」


「貴女、時間は?」


「だから、これくらいなら余裕で間に合うって。ああ、それと――」


 言って、席を立つ前に杏子は紙、ノートの切れ端を私に差し出した。


「なにこれ。…何かの暗号?」


 文字の羅列。11桁の数字。3桁−4桁−4桁。


 xxx-xxxx-xxxx


「あたしのケーバン」


「…あ。…え? 貴女、テレパシーあるからケータイなんかいらないって、持ってないでしょう」


「さっき契約してきた」


「え?」


「緊急時以外に鳴らしたら、殺すからな」


 取り付く島もなく、そう言い放って杏子はキッチンに消えた。
 1人取り残された私は、消えた杏子の背と、その紙に書かれた番号を交互に見つめてしばし呆然とする。そして、我に返ると、枕元の自分のスマートフォンを取り出し、咳き込みながら、その番号をタッチした。
 キッチンから、電子音が鳴り響き、次いで、うわっち!? という杏子の声が聞こえて、私の口端が少し上がる。


「てめえ、言った側から鳴らしてんじゃねえよ!」


「鳴らさなきゃ貴女、私の番号わからないじゃない?」


 キッチンからの怒鳴り声に、ちょっとだけ声を張り上げて答える。
 手書きのメモで番号を伝える辺り、どうせ操作方法だってまだよく分かってないんだろう。呼び出し音を鳴らしたまま鍋を持ってくるだろう杏子を想像して、どう対応してやろうか思いを巡らす。さっきのお返しで、いきなり素直にありがとうって言ってやろうか。
 考えている内に可笑しくなって、スマートフォンを握りしめながら、私はまた、咳き込みながら、笑い出していた。










――こんな小さな幸せに、私は必死に縋り付いて、生きている。










<了>     






ほむマミめいた何か

 書きかけのまどマギSSのほむマミパート。改変後世界。あとほむ杏と、ほむQがある。『すぎゆく夏』というエヴァSSへちょっとだけオマージュ。


※追記。pixivに加筆訂正して上げました。
 魔法少女になってよかったと思う? | SETTA #pixiv http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3807351










「貴女は魔法少女になってよかったと思う?」











「貴女は魔法少女になってよかったと思う?」


 倒した魔獣の落としたグリーフシードを拾う巴マミの背中に、ふと、暁美ほむらは訊く。
 暁美さんから話しかけてくれるなんて珍しいわね、と目を丸くして、しかしどこか嬉しそうにマミは振り返った。


「そうね――」


 少し思案した後、微かに浮かんでいた笑みを消した表情でマミは答える。


「それは私にとって、"生きててよかったか"っていうのと、同じ意味の質問になるわね」


 マミの顔に、さっきとは違う種類の微笑みが張り付いた。苦笑い。或いは、自嘲?
 事情は知っている。巴マミにとって、魔法少女とは生と死の狭間に交わした契約で、そうならない余地などなかったのだ。


「"あの時に死んだほうが良かった"って、一度も思わなかったというと、それは嘘になるわ」


 魔獣との戦いへの恐怖と苦痛、家族を喪いひとりぼっちになった孤独、事故の時に助け(られ)なかった両親や、倒せなかった魔獣の被害者への罪悪感。異質なものとして以後の人間社会の中を生きていくことへの不安。そしていずれ訪れるであろう、今度こそ逃れられないであろう死――。
 誰かに聞いて欲しかったのだろうか。マミは自分の抱える弱さを、まるで包み隠すことなく、滔々と口にする。


「……それでも貴女が、今、生きているのは、魔法少女をやっているのは、ご両親への贖罪だということ?」


 改めて、ほむらは問う。貴女は、生きててよかった、魔法少女になってよかったとは、思ってはいない、ということなのかと。
 マミは空を見上げた。


「そうね。両親を見捨ててまで生き残っておいて、今更死んだほうが良かった、なんて思うわけにはいかないって思っていたわね」


「過去形なのね」


 マミはほむらの言葉にやわらかく微笑う。


「……最初の頃はね、生きててよかったなんて考えるより、自分だけ生き延びてしまった罪悪感やそれへの贖いの気持ちのほうが強かった。私はもう無駄に生きちゃいけない、勝手に死んでもいけない。犠牲にしたお父さんお母さん、助けられなかったあの子の分まで生きて、死ぬまで人の為に尽くさなくちゃいけないっていう気持ちの方が強かった。でもね――」


 ほむらは次の言葉を待つ。


「それだけじゃない。それだけじゃなかったの。きっと最初からね。生きててよかったって、素直に思う気持ちは、ずっと」


「その比率が今は反対になっているということ?」


「ん〜。なんて言えばいいのかしら。割合は変わってないのかもしれない。ううん、そもそも測れるようなものじゃいんじゃないかもね、こういうのって。今だって自分だけが助かる願いをしてしまったことを後悔していないわけじゃないし、美味しいご飯食べたりして、生きててよかったって思っちゃう時にそれを申し訳ないと思わないわけでもない。ただ、そういうのひっくるめて全部、素直に受け止めるようになった、のかな?」


「わかるような、わからないような感覚ね」


「貴女、むつかしく考え過ぎなのよ。繊細だから」


 それは貴女の方でしょう、とは思ったがほむらは言わなかった。


「生きることを願って、戦ってきたのって、嫌なことも、辛いことも、悲しいこともあったけど、嬉しい事だっていっぱいあったから」


――嫌なことも、悲しいこともあったけど、守りたいものだって、たくさん、この世界にはあったから。


 ほむらはハッとする。いつかのまどかの言葉の記憶が重なる。


「誰かを守れたことって、その守った誰かのその後の姿を見られることって、それだけで嬉しくて、誇りに思えることなのよ?」


 マミはじっとほむらを見る。ああ、そうか。この世界では――いや、この世界でも――魔法少女になる前の私は巴マミに救われているのだ。


――私ね、あなたと友達になれて嬉しかった。あなたが魔女に襲われた時、間に合って。今でもそれが自慢なの。


 また、マミにまどかがダブる。


「救えなかった人もいるけれど、救えた人もいる。生きるのは苦しいこともあるけれど、楽しいこともたくさんある。貴女や佐倉さんのような文字通り命を預けられる仲間とか、美味しい紅茶とか」


「また貴女はさらりと恥ずかしいことを言う……」


 今日はツッコミ役の佐倉杏子がいないのが惜しまれた。


「うふふ。私はだから、どんなに悲しいことや苦しいことや辛いことがあっても、この世界が好き。いつか戦いの運命に押し潰されて円環の理に導かれる時がきても、生きたいと願ってよかった、魔法少女になってよかったって、笑って死ぬわ」


――だから、魔法少女になって、本当によかったって。そう思うんだ。


「――」


 ほむらは思わずマミから目を逸らした。


「……ちょっと、聞いたのは暁美さんじゃない。そういう反応は、こっちの方が、恥ずかしいんだけど」


「え、ああ…ご、ごめんなさい」


 ほむらは慌てて取り繕う。二重の意味で。


「ありがとう、巴さん。参考になったわ」


「なんの参考だか知らないけれど、どういたしまして。またよかったらお話しましょう? 今度は紅茶でも飲みながら。佐倉さんも一緒に」


「そうですね、また今度」


 取り繕いではない笑顔でほむらは答え、マミと別れた。




***




魔法少女になってよかったって、笑って死ぬわ。”


 巴マミと別れた後、暁美ほむらは、まだ自分が魔法少女ではなかった頃、最初のマミとまどかの最期を思い出して小さく微笑った。


「巴さん、変わってないんだなぁ…」


 でも、かつて貴女は、魔法少女になったことを、文字通り、死ぬ程に後悔もしたのよ、巴マミ
 美樹さやかが目の前で魔女になり、佐倉杏子を喪い、遺書を残して自らのソウルジェムを砕いていた彼女のことを思い出す。
 魔女の真実は、彼女に生きたいという願いを、魔法少女になったことを後悔させるものだった。それを伝えることは、彼女の笑って死ぬという世界の受容を妨げるものだったのだろう。
 いつだって、あの人にそれを伝えるのは辛かった。
 けれど、今はそれがない。魔法少女は魔女にはならない。
 彼女は望み通りに、世界を愛したまま、笑って死ねるだろう。
 あの、私達の最初の別れの時のように。
 そしてそれはまどかのお陰なのだ。
 まどかが魔法少女の何を守りたかったのかが少しわかった気がして、ほむらは天を仰いで頭のリボンに触れてみせる。


(がんばって)


 まどかの声が聞こえた気がして、ほむらは微笑んだ。

3D









3D











「暁美さんには、爆弾以外の武器ってないのかしら?」


 巴マミの問いかけに、暁美ほむらは俯いた。おさげが揺れて、眼鏡のレンズが光を反射する。


「……ないです。爆弾作るのに、今月のお小遣い全部使っちゃったし」


 必死に考えて、調べて、材料を買いに行って、夜なべして、作って、やっと成功して、褒められて、しかも調子に乗って作りすぎてしまったのだ。今更他の武器なんて思いつかないし、自前で用意できる気もしない。
 もう、どこかから、貰ってくるしか――


「ああ、暁美さん、責めてるわけじゃないのよ。あのね、ちょっと発想を変えてみない?」


 ほむらの思考の迷路が物騒な出口に辿り着こうとしたその時、マミが慌てた口調でその扉を遮った。


「ええとね、お小遣いで作るんじゃなくて――、つまり、魔法で作る方法考えてみない? 武器」


「そんなこと言ったって、私、いろいろ試してみたけど、どうやっても盾を1個しか出せないです。がんばって巴さんみたいに魔法が上手くなっていっぱい出せるようになったとしても、出てくるのはきっと、やっぱり盾ですよ……。盾じゃ、戦えないです」


 鹿目さんを守れるようにって願ったから、盾なんだと、ほむらは思う。その祈りを間違っていたとは思わないけれど、もう少し、融通の効く武器が欲しかったとは考えてしまう。


「鹿目さんや巴さんや美樹さんみたいに、私も武器が出せればよかったのに」


 そうすれば、美樹さんにも迷惑かけずに済んだし、お小遣いだって残ってたし、こんな卑屈な気持ちにもならなかったのに。盾の装着される左腕を、力なく、だらんと下げて右手で擦る。


「でも、ほむらちゃんの魔法は誰よりも凄いと思うよ……?」


 沈みかけた気持ちごと掬い上げるように、鹿目まどかの手がほむらの腕を取った。


「時間を止められるんだよ? 私にも、マミさんにも、他の誰にだって出来ないよ、そんな凄いこと」


「鹿目さん……」


 鹿目まどかという人は、どうしてこんなにいつもいつも、挫けそうになる私の心を救ってくれるのだろう。その温かい手に触れているとどうして元気が湧き出してくるのだろう。さっきまで泣きそうだったのが嘘のよう。ううん、今は別の理由で泣きそう。その思いを少しでも伝えたいと、ほむらもまどかの手をとる。


「ありがとう、鹿目さん」


 手が絡み合う。穏やかに笑いあう。視線が交差する。綺麗な瞳。まるで澄んだ湖の底を覗いているような気分。握り合う手の温もりは、もうどちらの体温なのかわからない。血潮が、鼓動が繋がっているような感覚。トクン、と心臓が鳴る。私はこのひとのお陰で今ここに生きているのだ。だから改めて、鹿目さんを、このひとを守ろう、彼女の為に生きよう、と暁美ほむらは心に誓う。


「ん、んんんン!」


 と、すごく不自然な咳払いが聞こえて、ほむらとまどかはハッそちらを見た。
 どことなく顔を赤くして、拳を口に当てた姿勢のマミさんが、視線を逸らす。
 ほむらとまどかはパッと手を離し、少し距離をとって、マミさんの方を向く。


「ああ、いや、ええと、なんの話だったかしら」


「ほ、ほむらちゃんの新しい武器の話だったよね?」


「そうでした……。ええと、魔法で武器を出せないかって話でしたよね? 私は鹿目さんや巴さんと違って盾しか出せないんで無理っていう……。多分、契約した時の願いに関係していると思うんですけど……」


 互いに視線をそらしつつ話を戻す3人。


「そうそう、その辺の話だったよね。……あれ。この武器って願い事に関係あるの?」


 まどかがふと気づいたように、魔法の弓を手に出して首を傾げる。


「私の弓矢とかさやかちゃんの剣って、願い事とあんまり関係ない、ような……」


「そうなの?」


 マミも首を傾げる。


「ああ、ええと、私とさやかちゃんの願い事って、ちょっと似てるんです。誰かを助けたいっていうか……」


「そういえば鹿目さんの願い事って……」


「ち、ちょっと恥ずかしいので今はまだ、秘密に、したいです……」


 ふぅん、とマミとほむらは顔を見合わせた。やっぱり鹿目さんの願いはあの黒猫のエイミーを助ける事だったのかな、とほむらは考える。全然恥ずかしくなんかないと思うのだけれど。でも――と考えこんでいるとマミと視線が合って、ほむらは首を横に振った。ほむらもまどかの願い事を直接聞いたわけではない。
 マミはは次いでまどかの顔を見る。まどかの顔は少し赤い。少しの沈黙の後、マミが表情を崩して微笑むと、まどかもぎこちなく微笑んだ。


「まー、乙女には秘密はつきものだし?」


 悪戯っぽい笑顔で、マミは手から魔法でリボンを出す。


「そういえば私も2人に言ってなかったことがあるのよね」


「え」


「なんでしょう?」


 手の中でリボンを弄りながら、勿体つけたように言うマミに、興味津々、という風にまどかとほむらは食いついた。


「百聞は一見に如かず」


 マミは手から幾つかリボンを出し、それぞれを伸ばし、束ね、ピンっと硬化していく。なんだか前にお父さんがお蕎麦を打ってた時みたい、とまどかは思う。


「え、ええええ!?」


 と、ほむらの驚きの声が上がる。
 見ると先程からマミが出して弄っているリボンは、編み物や組木細工のようにフクザツに絡み合って、なんだか見覚えのある形に――


「え? これって、ええ!?」


 まどかもほむらと同じ声を上げてしまう。


「これって、マミさんの……マスケット銃? え、これって、こういう風に……リボンで、出来てたんですか!?」


 見る間にリボンは見慣れたその形になった。まどかは思わず手を伸ばして指でつっつくが、間違いなくそれは実在していたし、まるで金属のように固かった。自分達の命を守り、幾体もの魔女たちを倒してきた正義の証。間違いなく、それはマミさんのマスケット銃だった。まどかとほむらはまるで魔法を見ているような気分で顔を見合わせた。いや、魔法そのものなんだけど――


「私が魔法で出せるのって、元々リボンだけなのよ?」


 呆気にとられている2人を前に、マミは肩を竦めてみせる。


「多分、"助けて"って、生きたいって願ったから、命を繋ぐものとして私の魔法の装備はリボン、だったのだと思うのだけれど、流石にそれだけで戦うのは心もとなくてね――。魔女を拘束は出来ても倒しきれなかったり」


 マミの目に陰が落ちる。


「色々あって――、暁美さんじゃないけれど、武器が必要だなってなって、それで色々考えて、試して、キュゥべえにも相談して、リボンを編み合わせて何かを作るっていう魔法に辿り着いてね」


「考えても普通はこんな発想思いつかないと思います……。というか、思いついても出来る気がしないです」


 以前、タツヤがスーパーで掴んで離さなかったお菓子のオマケのプラモデルを組み立てられなかった経験を思い出して、マミさんは凄い、とまどかは改めて思った。尊敬の眼差し。


「やらなきゃ生き残れなかったし、必死でね。図書館で鉄砲の本いーっぱい借りてきて調べて、1番簡単そうなの選んでね。だから1発ずつしか撃てないでしょ? 凄いようで実は大したことないのよ」


 構造はすごくシンプルなのよ、とマミは舌を出す。


「だからね、ものはやりよう、考えようだと思うのよ。戦闘も、魔法も。暁美さんも――、暁美さん?」


 気が付くと、ほむらはマミのマスケットを両手で抱えて、持ち上げたりひっくり返したりして繁々と観察していた。


「あ、すみません。いや、私も凄く感動して――。というか、これ、設計図とかありますか? あの、偶に出してる小さい鉄砲のでもいいんですけど」


「え? 簡単にノートに書いたのでよければあるけれど……」


「あの、それなら、私にも作れるかも!」


「え? ほむらちゃんも、リボン――はないから、盾で、鉄砲を作るの?」


「いえ、そうではなく。……あの、3Dプリンタって、知ってますか?」


「「3Dプリンタ??」」




 これは、暁美ほむらが、3Dプリンタで銃を作る世界線の、物語――



 ――という感じで、3Dプリンタの話題が流れるTwitterのTLを見ていて脳裏をよぎった、ほむほむが武器調達の手段として、銃の窃盗ではなく3Dプリンタによる密造の方を選んでいたらどうなってただろう、という妄想SSを書いていたのですが、書き上がる前にネタの賞味期限が切れそうだったので(もう切れてるかもしれませんが)、Togetterにネタだけ纏めておきました。気が向いたら続きも書こうと思いますが、どういうネタや話なのかは結末までそちらに書いていますので、興味を持たれた方は参照くださいまし↓

もしも暁美ほむら3Dプリンタで銃を作っていたら - Togetterまとめ http://togetter.com/li/665862

まどマギ俺1周目妄想

まどか「マミさんとなら飛べる気がするんです」
まどか「なれるかな、マミさんみたいな魔法少女に…」

という情景がふと頭に浮かんで、ああ、3周目もいいけど、1周目もいいものだなぁ…と思ったので、俺1周目を妄想。


 浮かんだ情景からして、もうどれだけ高く上げて落とすかということしか考えてないわけですが、実際のところ、1周目って、ワルプルギスまでは凄いキラキラしたまどか&マミさんが見られる周回であるのは間違いないので、理想のまどマミとかガンガン書いていいわけですよね。もう、何もかもがいい方向に向かって幸せまっただ中みたいな魔法少女2人。


 「クラスの皆には内緒だよっ!」


 はしゃぎっぷりからも分かるように、1周目まどかは、何者でもなく、きっと何者にもなれないだろうというような諦念からの反動として、魔法少女という何者かになれたことに大喜びです。
 転校してきたほむらちゃんにも物怖じせずに積極的に話しかけるし、マミさんと一緒に放課後魔法少女活動に全力投球、充実した日々を送っております。
 さやかちゃんや仁美ちゃん、両親にも、「いい意味で変わったね」って好意的に見られたり、それがまんざらでもなかったり、そんな姿に男子の人気も急上昇したり…。


 一方のマミさんも「もう何も怖くない」状態、魔法少女になって以来最高に幸せな日々を送っております。明るくなったねって先生やクラスメイトに言われたり、事故のこともあって疎遠になっていた旧友が話しかけてきてくれたり、ばったり会った杏子とも余裕と優しさを持って話して、関係修復の芽が見えたり…。


 ドラマCD「メモリーズ・オブ・ユー」も参照して、まどマミの2人はほむらちゃんやエイミーとも仲良しで幸せな日々を過ごす。
 冒頭の情景もどこかに入れよう。まどマギ魔法少女は飛べない、というところから話を展開していって。


まどか「魔法少女って、飛べるものだと思ってました」
マミさん「高く跳ぶことはできるし、私のリボンみたいに魔法を組み合わせれば立体機動めいたことは出来るんだけどね」
まどか「空を飛びたいってキュゥべえにお願いしてたら、飛べたのかなぁ…」


 とかそういう感じか。
 急激な変化を訝しぶ周囲とか、調子に乗りすぎて失敗したりとかを織り交ぜてもいいだろうけれど、とにかく希望に満ちて輝く魔法少女な日々を描きたい。
魔法少女になってよかった」と心から思うまどマミ。
 そして、2人ならなんだって出来る、なんだって叶えられる、どんな魔女にだって負けないと明るい未来を夢見る。


 しかし、その幸せな日々はワルプルギスの夜によって蹂躙される。


 どれだけ落差を出すかがポイントで、これ以上ないくらい幸せに見えたものを物理的に破壊していく絶望感が欲しい。


 その為には前半で、ここで壊す場所や人間関係を具体的に描写しておく必要があるな。まどマミで行ったデートスポットとか、まどさや仁の通学路、鹿目家の皆で行った河川敷とか、それぞれの家とかをこの上なく幸せそうに描いた上で無情に破壊するのが望ましい。杏子とマミさん、さや仁恭、和子先生なんかも幸せかそうなる可能性を示唆しておくべきだろう。その上で容赦なくワルプルギスに殺されなくてはならない。ああそうか、魔女に襲われたのをまどか達が助けたエピソードとその記憶があると、今度も助けてくれるという希望が絶望に変わってよりよいかもしれない。


 とにかく、まどかとマミは必死に見滝原を、大切な人達を守ろうとするがそれが叶わない。
 2人なら大丈夫、なんだって出来ると信じて夢見ていた未来は粉々に砕けていく。
 必死に伸ばした手も虚しく、友達も家族も守れず、思い出の詰まった風景は瓦礫に変わっていき、遂にはまどかの目の前でマミさんまでもが死んでしまう。


 大好きな人を助けられず、しかし自分だけは生き残っているという状況にまどかがふと気づく。


(ああ、これがマミさんがずっと抱えてた気持ちなんだ…。)


 あ、このシーンに為にはマミさんが自分の過去をまどかに話す展開が必要だな。前半に入れとかないと…。
 その時まどかは綺麗事を言ってマミさんを慰めるんだけど、今の状況になってなんにもわかってなかった自分に気づいて後悔してもらうのもアリか(実際はマミさんは本当に心からまどかに救われていたのだが、まどかはマミさんがそういう優しい嘘をついてくれたんだと誤解するのもいい)。
 自分がマミさんになんと言ったかを思い出して立ち上がろうとするけれど、「私がいます。マミさんは私が支えます」とかそういう2人なら大丈夫的な台詞だったので、マミさんがもういないことを思い知って余計に立てなくなるまどか。
 絶望に飲まれかけ、ソウルジェムが急激に濁り出す(それを見るキュゥべえの描写も入れるべきだろうか)。
※11話で瓦礫に足を挟まれ、心が折れかけてソウルジェムが濁り始めるほむらと描写を重ねたい。
 しかして11話のまどかのように、まどかの元にほむらが現れる。
 ここはさらに「メモリーズ・オブ・ユー」も参照して、エイミーの先導で現れるほむら、としたい。
 エイミーの鳴き声は幻聴かと思うが、自分の手を握るほむらの手で我に返るまどか。その瞬間にソウルジェムの濁りが止まる(これも11話ほむらと重ねる)。


 何1つ守れなかった絶望が、守れたもの達があったという希望に変わる。
 「やっぱり私なんか何にもできない人間なんだ」という諦念が、「こんな私でも守れたものがある、出来たこと、出来ることがある」という希望に変わる。
 「魔法少女になんかならなきゃよかった」と思いかけていた心が、「魔法少女になって本当によかった」という気持ちに変わる。
 エイミーとほむらに心からの感謝をするまどか(客観的にみても、彼女らはまどかの魔女化を止めている。<これはキュゥべえに言わせるべきか?)。


 本編のワルプルギス特攻へ。
 特攻の意味付けをどうするべきか。あの状況で特攻する意味はなにかあるのだろうか。ほむらを連れて逃げるのではなく、置いて特攻する理由とは(課題)


 そして、このまどかのワルプルギスへの特攻シーンに「マミさんとなら飛べる気がするんです」「マミさんみたいな魔法少女になりたい」の台詞をうまく絡めたい。
 後者を活かすなら、マミさんの死をまどかを庇ってのこととし、それと同じようにほむらを庇って飛ぶまどか、みたいになればいいのだろうか。
 とにかく、実際には跳躍だが、まどかの主観では飛行しているというような描写にしたい。背中に羽根が生えたかのような、マミさんの声が聞こえたかのような幻肢、幻聴。
(マミさんのような、誰かを守る魔法少女になれたかな、私?)
 死の瞬間、自分に向かって手を伸ばすほむらの姿を見て、ほむらちゃんを守れて本当によかった、ともう一度呟いて、その結果に満足して、魔女になることなく死亡。


 死亡だが、まどか主観ではハッピーエンド(いや客観的には全然ハッピーでもベストでもないけれど)。


 …といったところか俺1周目。大雑把だけど。
 後はここで終わるか、ほむら視点でエピローグをするかとかが要検討、かしら。


 気が向いたらもう少し詰めてプロット起こしてSSにします。

今年は雪が降らなかった

雪が降らなかったせいなのか、時間の経過のせいなのか、去年ほどには胸がざわつかず。
それをどう判断するべきかは、保留。

ここ一週間くらいの、世間に流れていたニュースやTwitterでの話題、オタサーの姫だとか、メンヘラ神の自殺だとかに対して、栗本薫の『仮面舞踏会』とか、『暗黒太陽の浮気娘』なんかが連想されていたっていうのはTwitterなんかに書いたけれど、もっと言えば僕はそこに彼や彼女のことを思い出していたりもした。

今の目からすると(いや、当時はそういう単語がなかったというだけで、jesちんなんかは別の言葉で同じようなことを言っていたのだけれど)、彼女は所謂ところのオタサーの姫だったように思う。
とはいっても、彼女は世間一般で言うようなサークルクラッシュを引き起こすようなことはなく、普通に仲間内の1人と正式に付き合い、祝福されたり羨ましがられたりはありつつも、少なくとも表面上は僕らの関係は壊れることなどなく継続し、そして、それがどうしてなのかは正確なところは未だわからないのだけれど、サークルではなく、彼女自身がクラッシュしてしまった。
彼女のクラッシュは逆に僕らを結びつけ、疎遠になりつつあった僕らは何年かの間、彼女を理由に何度か集った(その状況を知り一度その集いにも顔を出した彼女の弟さんが、そんな姉のことを凄いとweb上の日記に書いていたのを覚えている)。
今では妻帯者も多くなり、彼女を理由に集まるということもなくなってしまったけれど、それでも僕らが今でもつるんだり交流を続けたりしている理由の1つには、彼女の存在があるのではないかと思う。

彼女を僕らの元に導いたのは僕がこんな風に書いていたWEB上の文章や、仲間たちと一緒に作った同人誌だということで、彼女が仲間内の1人と付き合うようになったとき、それについてありがとうと言われたけれど、今の僕らを結びつけている理由の一端に彼女の存在があるのなら、それについて、僕もまた彼女にありがとうと言うべきだろう。

ありがとう。

…そういや、その言葉は彼女が最期にメールした言葉でもあったっけか。
まぁ、世の中にはサークルをクラッシュしなかった姫だっているのである、というような話。

……あ。更に思い出したけど、彼女のウチらの中での呼称って、姫じゃなく勇者だったわ(件の同人誌が欲しいからと、うちらが参加してた地方のイベントに単身突撃してきたことに由来する)。
オタサーの姫が男だったりすることも珍しくないようですが、うちの姫は勇者でした、ということで。

なんだこのオチ(オチてない)。