Forword LOVE

注:以下の文章はPCゲーム『2ndLOVE』と『魔法少女まどか☆マギカ』のコラージュSSです。有り体に言うと、『2ndLOVE』のとある章の登場人物名を『まどか☆マギカ』のそれに置き換えただけのパロディです。元作品の致命的なネタバレを含みます。
 『2ndLOVE』の系譜の『セカンドノベル』と『まどか☆マギカ』についての記事を書かせて頂きました夏コミ(C80)新刊『恋愛ゲーム総合論集』の宣伝…にはなってないか。すみません、俺が見てみたかっただけの趣味の謎SSです。








Forword LOVE









 魔力を展開すると、強く、温かい風が吹き込んできた。
 ゆっくりと背中の翼を広げていく。
 花を地面に置いた。風にあおられて花びらが宙に舞う。
 私は手にしていたその『弓』の弦を絞った。
 『がんばって』、呟かれた。
 一瞬口の端に微笑みを浮かべた後、矢に魔力を込める。
 極限まで願い、祈りを込めた力を制御し、解き放つ。
 いつか、彼女がそうしていた様に。
 そして、彼女がそうしていた様に、
 私はそれを、空に飛ばした。

 まっすぐに飛んでいったそれは、下から吹き上げる風に乗り、空高く舞い上がっていった。
 とても、とても高いトコロへ。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□【終わり】

 【???】
  まだ、『終わり』は早いよ、お義姉ちゃん。

 【???】
  あなたは――










魔法少女まどか☆マギカ










I will start to walk.










「この子が、今日からほむらの義妹になる子だよ……、ほら、義姉さんにちゃんと挨拶して!」
「……こ……こんに……ちは」
「…………」
「こ、こら! おい! どこに行くんだ! おいっ!」

「……ふう。仕方ない……か。突然新しいお母さんと義妹だなんていわれても、やっぱりびっくりしちゃうわね」
「ああ、……どうも……人見知りが激しい子でな」
「まったく。そういう所は、あの人そっくりね!」
「おい……」
「あ……ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたみたい」
「…………」


「あっ! ちょっと! そんな、勝手に行かないで!」
「義姉を追いかけたか……義妹の方は早くもなついたみたいだな」
「……。ねえ、あなた、子供たちもいない事だし……」


「……ついてこないでよ」
「…………」
「ついてこないで」
「…………」
「ついてこないでって、言ってるでしょ! こっちに来ないで!」
「…………」
「いい!? 私はまだあんなオンナ、認めてるわけじゃないんだからね! あんなオンナより、母さんの方が……百倍も千倍もいいんだから!」
「…………」
「だから、私はあなたのことも大嫌いなの」
「…………」
「………………」
「……………………」
「……………………ついてこないでってば!」





「子供たちは?」
「どうやら、外に行ったみたい」
「雪だるまでも、作りにいったんじゃない?」





「や……止めてよ……そんなの……やだ……よ……やめてよお……」
「…………」
「やめて……お義姉ちゃん……さむいよお……」





「あれ? どうしたの? あの子は?」
「……。もう少し、外で遊んでるって」
「あら、そう……」





「な……なにがあったのッ!? その格好は!」
「……………………」」
「…………へ……へへ……こ、転んじゃって……」
「は、早く脱いで! 大変、凍傷になっちゃうわ!オネエちゃん!お風呂の用意をしてあげて!……」
「…………」
「……オネエちゃ? …………。ま、まさか、オネエちゃんが……」
「ち、違うよ! お義姉ちゃんは関係ないよ! わたしが一人で、転んだだけだよ!」
「……!」
「そ、そうよね……。やだ、私ったら、なに考えて……」





「どうして、黙ってたの?」
「…………」
「どうして?」
「……わたし、お義姉ちゃんの事、好きだから……」
「…………」
「……うわっ! 熱っ!」
「お風呂には、急に入らないで、ゆっくりと」
「あ……うん……」
「…………」
「………………」
「ここの…………は?」
「ああ、この傷? ……」
「…………答えにくい事だったら……」
「いや……そんな事……ないよ。それ、……母さんが、つけたんだ。わたしが悪戯すると、母さん、こうやって、煙草で……」
「……な、なんて……」
「あと、自分でつけたのもある。なんか、母さんにやられたあと、こうすると安心できたんだよね」
「…………」
「でももう、そんな事しないよ!それにもし、母さんがお義姉ちゃんにそんな事したら、わたし、絶対にお義姉ちゃんを護るから!」


ぎゅ。


「お……お義姉ちゃん……」
「……今度から、お風呂は二人で……入ろう」
「う……うん」





「また……あのオンナと浮気したんでしょ!」
「し、してない」
「うそ! 私、電話出た時間いたんだから! あなた、これで何回目だと……!」
「何回目? そんな、数える程もやってないだろうが! それに浮気だったら、この前、お前も……!」
「な、それとこれとは話がべつでしょ!」





「…………お義姉ちゃん……」
「来て……」
「…………」
「……実は私も……眠れなかったの……」





「うん……」
「今日はあの二人、一段と激しいわね」
「うん……」
「震えてるの?」
「う……うん……」
「大丈夫。私がここにいるから。あなたは何も心配しないで」
「うん……」
「私を……母さんだと……思って」
「うん……」





「……y=3x-1で、ここの問題は、この方程式を……」
「ふむ……」
「わかった?」
「オッケー。やっぱりわかんない時はお義姉ちゃんに聞くのが一番いいね。……ところで、お義姉ちゃんはなにやってるの?」
「見て分からない?」
「作文?」
「うん。『私の得意な事』」
「なら、お義姉ちゃんは決まりだね。『お話を書くこと』だね」
「だったらあなたは……『絵を描くこと』ね」
「…………お義姉ちゃん?」
「なに?」
「いつかね、二人で本を出せたらいいよね。お義姉ちゃんがお話を書いて、わたしが絵を描くやつ」
「……悪くないわね」
「エッチなシーンも入れてさ。……ウェヒヒ!」
「……バカッ;」





「あ、起きた?」
「水……代えてくれたのね。ありがとう……」
「もともと身体、あんまり強い方じゃないんだから。無理、しちゃ、だめだよ」
「うん……」
「ま、ね、今は安心して寝てていいよ。わたしが見てるから」
「ごめん……」
「あやまんないで。これはこれで……寝てる時の顔見るの、結構いいかもとか思ってたりするから」
「……悪趣味……」
「特権だね」
「…………今だけ、よ」





 幼い頃、病弱で何日も学校を欠席することなんてざらだった。
 結果、私は何年か学校を留年し、年下の妹は『学年上では』わたしより年代が上ということになった。
 それは奇妙な、どこかバランスのとれていない感覚だった。


 彼女を意識するようになったのは、『そこ』から始まっていたのかもそれないし、あるいはもっと前からだったかもしれない。
 いずれにせよ、私は明確に線引き出来ない内に、『いつの間にかずっと』彼女の存在を意識するようになっていた。




「はい! これ!」
「わ、わたしに?」
「当たり前でしょ! まどか以外の誰にチョコ渡すのよ!」
「……そう……なの?」
「ねえ腕、組んでいい?」
「で……でも……やっぱ、ここじゃ……マズイよ。先生と生徒が腕組んで歩いてた、なんて……」
「ちぇ……残念……ケチ……」


「あ! ほむらちゃん!」
「…………」
「先生、ゴメン、わたし……ほむら義姉さんと……」
「ふう。仕方無いわね。ちゃんと全部、食べてね☆」
「う、うん……それじゃあ、先生……」
「また明日、学校でね〜!」





「……」
「……ほむらちゃん……」
「さっきの、ショートカットの女の人、だれ? 元気な人だったけど」
「あ……あれは今年赴任してきた先生で……」
「なんか。いやに親しくなかった?」
「そ、そんな事……ないよ……」
「……」





「これ……渡そうと思ったけど……」
「あ……」
「いらないわね」


「な……なんで……あんな……流れが急じゃ……」
「……あなたには、あの人のがあるでしょ?」





「ま……、まだ探してたの!?」
「だ、だってせっかくほむらちゃんが作ってくれたのに……」
「そ、そんなの、探したって泥だらけになってるわよ!」
「でも……!」


「もう……帰りましょ。私も、興奮してたから」
「ほむらちゃん……」
「代わりのやつ、つくってあげるから」
「そんな……悪いよ」
「でも、そうじゃなきゃ……私の気も、収まらないの」
「…………。あ、そうだ」
「なに?」
「ほむらちゃん、いつかこういう宿題、やってたよね。『私の得意な事』っていうの」
「え……ええ。そんなのも、あったわね」
「ほむらちゃん、お話かくの好きなんだからさ、いつか『わたしを主人公にしたお話』書いてよ」
「え?」
「わたしも……手伝うから」




赤い雪。


「あの子の……家族の方ですか?」
「はい……義姉です」
「これが、制服の中に入っていました。それと絵が……」
「これ……手紙、ですか?」
「そうみたい……ですね。それでは、私は向こうの方に用事があるので」
「手紙……あの人宛か……でも……」
「この内容は……、見せない方がいいわね」


「(ごめんね、ちゃんと伝えられなくて……でも、ちょっとあれは……今のあの人に厳しいわよ?)」




まっすぐに飛んでいったそれは、下から吹き上げる風に乗り、空高く舞い上がっていった。

とても、とても高いトコロへ
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□【終わり】



【???】
 まどかは、義妹の姿。
 さやかは、ショートカットだった頃のあの人の姿。
 巴マミは、成長したあの人。
 杏子は、自分を取り巻くセカイに反発していた自分。
 ゆまは、幼い頃の義妹。
 織莉子は、親への愛憎に引き裂かれていた自分。
 キリカは、私に依存していたころの義妹。
 ほむらは、
 そのお話は。
 一度舞台を設定してしまえば、あとはキャラクターたちが勝手に動いてくれた。
 私はなにもする必要がなかった。


【???】
 ……けれど。
 その話は何度書いても、納得のいくものに仕上がらなかった。


【暁美 ほむら】 物語を書いている途中「もう書けない」と思ってファイルを閉じた時、『そのままの』あなたの名前を出すと、続く文章が浮かんできた。


【???】
 さし絵――だよ、お義姉ちゃん。
【鹿目 まどか】
 さし絵――だよ、ほむらちゃん。




「ずっと……、ずっと言えなかった言葉があるの。
 あなたがこの世界から消えても言えなかった言葉が」


振り返り、彼女の胸の中に飛び込んだ。


【暁美 ほむら(穂村 睦海)】
 好き……。
【鹿目 まどか(暁美 円)】
 ……わたしもだよ、ほむらちゃん。


手をつなぎ、瞼を閉じた。




彼女を想うと。
体の内側から癒されるようだった。




「好き……だった。
 でも、もう一人で大丈夫。
 だから、今までありがとう」


キス。




一瞬。確かな『感触』があり、続いて私の身体はその先へと、突き抜けていった。


【まどか】
 ……さようなら。


右手をそっと自分の胸にあてた。


【ほむら】
 さようなら。


左手を胸にあて、抱きしめ、瞳を閉じた。




朝、私は目を覚ますと、まずカーテンを広げ、窓を開け、外を見た。
雪。
昨夜からずっとつけっぱなしだったディスプレイにちらりと目をやった。


ふいにあの人たちの声が聞きたくなり、ケータイのボタンを押した。
取り留めのない会話のあと、本題に移る。
今年の春は帰られると思う、と連絡する。


机に座り、画面をもう一度見た。


私は一度大きく息を吸い込むと、静かにキーの上に手を置いた。




まっすぐに空を飛んでいったそれは、下から吹き上げる風に乗り、空高く舞い上がっていった。


とても、とても高いトコロヘ舞い上がった紙飛行機はやがて、一人の少女の元に落ちた。
彼女は紙飛行機を拾い上げると、細く丸め、手にした筒の中に入れ、蓋をして、髪を結んでいたリボンを外して、筒に結んだ。


四歩足を進め、視線を落とした。
そこにはうなだれ、泣きじゃくり、しゃがみこんでいるもう一人の少女がいる。
少女は筒を落とさないように丁寧に、もう一人の少女に渡した。
もう一人の少女はそれを受け取ると、そっと胸にあて、小さく息を吸い込んだ。
涙を拭い、立ち上がった。


『ありがとう』、呟いた。
胸の中の違和感には、まだ慣れないけれど。




でも。






もう、立ち止まることはない。
彼女が「伝えて」くれた事を忘れないから。


彼女の姿を見送りながら、少女は靴のつま先で地面を三回、叩いた。
これから新しいステップを踏むために。
さあ、歩き出そう。







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