まどマギ&FE外伝 コラージュSS『赤の選択』

さやか「な……!? 余計なことをするんじゃないよ、杏子。これくらいアタシひとりで――」


 気がつくと、勝手に身体が動いていた。
 魔女本体への自棄めいた突撃で周りが見えていなかった美樹さやか、その背後に飛びかかった使い魔たちを切り捨て、薙ぎ払い、受け止めながら、庇った相手からの罵声を聞いてあたしは嗤う。
 それが良くなかったのかも知れない。笑い声を聞いたさやかがバツの悪そうに言い捨ててあたしの背中から離れるのと、巴マミの悲鳴が聞こえるのと、背後に光が生じるのはほぼ同時だった。


マミ「に、


 その光が魔女の攻撃だと理解した瞬間に、時間が止まった。
 私の手をとった暁美ほむらの手を握り返し振り返った時に見たのは、眼前の魔女が光を放った瞬間の顔、その眉間(?)に自らのソウルジェムを放って、更に飛び上がってそこに剣を突き立てようというさやかの姿だった。


杏子「な――」
ほむら「自爆、する気ね」


 魔力を限界まで込めたソウルジェムは爆弾としても機能する。私たち魔法少女の最強最期の武器。それをさやかに教えたのはあたしだ。背中を冷たいものが走る。


杏子「冗談じゃねえぞ。……ほむら」
ほむら「美樹さやかを救えというなら無理よ。それに、あのソウルジェムはおそらく限界。まもなく彼女は円環の理に導かれる。分かっているからこその自己犠牲行動よ」
杏子「頼むよ」


 あたしが真っ直ぐにほむらの目を見つめるとほむらが折れた。こいつの決断は早い。止めていられる時間も長くないのだろう。心から、感謝する。


杏子「悪いな。あの攻撃はあたしが受け止める。だから」
ほむら「私は時を止めている間に、魔女と刺し違えようとしていた美樹さやかをあそこから引きずり下ろせばいいのね」
杏子「ああ。仕上げはきっとマミがやってくれる」


 言いながら魔女とさやかとの間に槍を突き立て、防護結界を張る動作に入る。ほむらの手が離れ、次の瞬間には時間が動き出していた。


マミ「に、逃げて――!!」


 巴マミの叫びの続きが響き、あたしの結界が光を受け止め、ほむらがさやかをそのソウルジェムごと地面に組み伏せるのは同時だった。
 即席の結界は魔女の攻撃を受け止めきれずに消滅し、しかし反射した光が魔女自身の顔を焦がす。魔女が怒り狂って眼前の私の身体をその手で掴んだ。文字通り身を引き裂かれる痛みが私を襲うが、想定通りだ。魔女の目?から次々と光が走る。地面に倒れるほむらとさやかの前に再度結界を張る。二重、三重…十重に。肉体のダメージと魔力の限界を越えた放出にソウルジェムが軋むが構わない。そして叫ぶ。


杏子「マミさん!!」


 呼びかけへの返事は、「ティロ・フィナーレ」という聞き慣れた掛け声だった。その言葉と、魔女の光すら掻き消す閃光が走るのに安堵して、あたしは目を閉じた。




 次に目を開けた時、そこには逆さまのさやかの泣き顔があった。
 彼女に膝枕されていると気づくには暫くかかった。
 青い光がさやかの手からあたしに向かって流れていた。


杏子「温かい、な……」
さやか「しゃべるな、杏子」


 呟きは切羽詰ったようなさやかの声に遮られる。伸ばそうとした右手がなかった。


杏子「ならお前がしゃべってろさやか。……声が聴きたい」
さやか「ばっ――」


 左手は動いた。目の前の女の涙を拭いたいと思った。


さやか「ばか。アンタは底なしの大馬鹿だよ――」


 自分でも、そう思う。


杏子「あたしは卑怯者だ、さやか。おまえが、救われたら、あたしも救われると勝手に思ってた……だけだ」


 うまく、喋れない。学校とか、途中から行ってないからな、あたし。


杏子「ほむら、マミ」


 目を動かすと、彼女達も側にいた。マミ――さんは、泣き崩れていた。この優しい先輩を、私は2度も泣かせてしまった。本当に、申し訳ないと思う。


ほむら「……何かしら、佐倉杏子


 ほむらがいつも通りに静かな声をかけてくれるのがありがたかった。


杏子「あたしはバカで卑怯者だから、あんたたちに、あんたに――」


 人類の運命よりも
 世界の明日よりも


 でもあたしにとっては


 何よりも
 真実に近い


杏子「こいつを、さやかを――」


 伸ばしたあたしの手を、さっきみたいにほむらが握る。跪いて、両手で包み込む。


ほむら「――いいえ杏子。貴女を救うのも、美樹さやかの呪いを解くのも、私じゃないわ。貴女よ」


杏子「それでも」


 ほむらの目の端に光るものが見えたのはあたしの気のせいだろうか。気のせいでないなら、少し嬉しい。


杏子「それでも、おまえに感謝するよ。……暁美、ほむら」


 優しい、魔法少女


 左手から力が抜ける。替わりに右手を伸ばした。
 眼の前に淡い桃色の光が射し、あたしは、知らない筈の、なのに懐かしい誰かにその手を引かれる。
 そいつはさやかやマミさんを懐かしそうに見回して、ほむらの方を見て何かを呟いて、それから最後に、あたしに向かって微笑んだ。
 ああ、おまえ――
さやか「こんな世界に生まれたのが、運命かってね」


 光になって消えた佐倉杏子の残滓を抱き締めるようにして、美樹さやかは呟いた。


ほむら「違うわ」


 暁美ほむらは立ち上がる。


ほむら「運命さえも私たちが選んだのよ」


 巴マミが顔を上げる。
 差し出されたほむらの手をさやかが取る。


ほむら「だからいくらでも――変えてゆけるはずだわ」


 こうなることを望んでいたわけじゃないけれど、それでも


ほむら「行きましょう。美樹さやか巴マミ


 道は前にしかない。


『がんばって』


 立ち上がった3人は、吹き抜ける風の中に、懐かしい声を聞いた気がした。

コラージュ元:佐野真砂輝&わたなべ京『ファイアーエムブレム外伝』コミック版。ディーンとソニアのエピソードより